裁判所と評価人を結ぶネットワークの道
我が国の経済は、バブル経済崩壊以後、大企業や金融機関の破たんが相次ぐなど、かつて経験したことのない事態に直面し、ますます混迷の度を深めていますが、このような社会経済の急激な変化により生じた多額の不良債権の早期処理が、今まさに国家的な課題となっております。不動産競売制度は、不阜債権の最終処理のために重要な役割を担っていますが、近年、不動産競売事件が急増する中で、最低売却価額制度の在り方についても様々な議論や指摘がなされているところであります。
また一方で、社会経済情勢の変化や、制度の実効性をより一層高めるといった観点からの、担保・執行法制の改正作業が大詰めを迎え、まもなく法制審議会から改正要綱案が示されようとしています。この改正論議の中では、執行妨害対策としての各種方策等が検討されてきましたが、売却の促進といった観点から最低売却価額制度の在り方等についても検討が加えられてきました。
最低売却価額制度は、不動産の現況や権利関係等を的確に把握し、これに基づいて競売市場の実勢にあった適正な価額を提示して、入札による適正な売却価額の形成を担保し、競争を通して円滑な売却を実現しようとするものです。また、債権者や債務者く所有者)等の利害関係人の利益を保護し、かつ、反社会的勢力が不当な廉価で買い受け、債権回収を阻害することを未然に防止しようとするものであり、いわば不動産競売手続の根幹をなす制度であるといえます。そして、この制度は、その根拠となるべき評価に関して、専門家による適確な判断と正しい情報提供が行なわれてこそ、初めて円滑に機能するものといえます。
私達評価人は、このような背景を踏まえ、利用者に対して分かりやすく、しかも質の高い評価と情報を提供するためには、評価事務の全国的な標準化を行う必要があるとの認識に達し、高等裁判所所在地の各評価事務研究会め協力を得て、更に全国の評価人や執行裁判所の意見も聴きながら、評価基準と評価書書式の標準化を進め、その成果として、競売評価における基本的な指針である「競売評価の主要論点」を取りまとめました。そして、今後も引き続き、社会、経済状況等を反映した水準の高い競売評価を提供していくためには、全国の評価人が不断に連携し、競売評価の更なる研究を行い、その結果を日常の評価事務にフイードバックしていくことが必要と考え、この度「全国競売評価ネットワーク」を設立することといたしました。
本ネットワークは、全国の評価人が各地方裁判所ごとに設立された評価事務研究会を母体としながら、全国的な評価の在り方について、各地のノウハウを集積して、研究討議し、執行裁判所と緊密な連携をとり、更に不動産競売事件に関与する弁護士や学識経験者等とも意見交換を行いながら、その成果を反映させた競売評価を行い、これを裁判所からインターネット等を通じて利用者に広く提供し、不動産競売事件の迅速かつ円滑な処理に寄与することを目的とするものです。私達は、このネットワークによる研究成果が、不動産競売事件における早期売却の推進や手続の迅速化に繋がり、競売市場への参加者の増加、ひいては不良債権の早期処理のために責献できるものと確信しております。
このような趣旨に基き、不動産競売事件に携わっている全国の評価人に本会の結成を呼びかけるとともに、裁判官及び裁判所書記官をはじめとして、不動産競売事件に関与している弁護士や、競売評価等を研究している学識経験者等の各位にも、ご参加とご支援をお願いすることといたしました。こうした「全国競売評価ネットワーク」設立の趣旨をご理解いただき、ご参加並びにご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
平成15年1月吉日