迅速・適正な競売評価

よくある質問

  1. 不動産競売における「売却基準価額」とはどのようなものですか?またどのように決められるのですか。

    「売却基準価額」とは,裁判所が評価人(不動産鑑定士)の評価に基づいて定める競売不動産の標準的な価額です。(民事執行法60条1項)平成16年までは「最低売却価額」でしたが,平成16年の民事執行法の改正により「売却基準価額」となりました。

    「売却基準価額」の場合は,「買受可能価額」が「売却基準価額」の2割低額な価額以上となります。以前の「最低売却価額」よりも市場の動向(特に地価の急激な下落時)をきめ細かに反映させるための改正です。評価の内容については,以前の「最低売却価額」と同じです。

  2. 競売不動産の評価はどのような手順で行われますか。

    執行裁判所から評価命令を受け取ると,以下の手順で評価を行います。

    1. (1) 競売不動産の確定

      どの不動産を評価対象とするのか,登記簿,公図等をもとに確定します。土地であれば,所在,地目,地積等,建物であれば所在,家屋番号,床面積等です。

    2. (2) 競売不動産の確認

      上記で確定した不動産を,現場で実際に調査します。土地については,地積の概測,隣接地との境界の状況,土壌汚染等の有無,目的外建物の存在を確認します。建物については,間取図を作成し,仕様,老朽化の程度,増改築の有無等を確認します。

      また,関係者から事情聴取を行い,占有者がいる場合は賃貸借契約等の権利も確認します。

    3. (3) 評価資料の収集・分析

      収集した資料の分析・解釈の精度が評価の成果に大きくかかわるので,評価資料を広く収集し・分析します(詳細は評価資料の項参照)。

    4. (4) 価格形成要因の分析

      一般不動産の価格を形成する要因には,一般的要因(人口や経済要因など),地域要因(生活利便性や商業集積度など),個別的要因(形状,角地など)がありますが,競売不動産の場合には,これらに加えて,売主の協力が得られないことなどによる競売不動産特有の減価要因があります(詳細は競売市場性修正の項参照)。

      評価にあたっては,これら要因の価格に与える影響を,それぞれの案件に応じて,適切に判断します。

    5. (5) 評価手法の適用

      原価法,取引事例比較法,収益還元法等を用いて,評価を行います(詳細は評価手法の項参照)。

    6. (6) 評価額の決定

      前記(5) で求めた各試算価格の特徴を勘案し,どれをどの程度重視するかを判断し,評価額を決定します。

    7. (7) 評価書の作成・提出

      以上の手順を踏まえ,最終的に評価書を作成します。評価書には視覚的な状況提供を助けるため,位置図や公図,建物図面,写真などの資料を添付しています。

  3. 不動産が競売で売却される場合,通常売買により取引される場合と比較して,価格評価上どのような違いが考慮されますか。

    不動産競売においては,通常の不動産取引と比べて大きく異なる以下のような市場の特徴があります。

    まず,競売においては,売主である所有者が強制的に所有物の売却を迫られる立場であることが多いので,売却に際してその協力が得られないのが通常です。本来,対象物件の価格に影響を及ぼす重要な要因は,売主からの詳細な開示があって初めて掌握できることが多いものです。売主の協力が得られない場合,買主から見た場合対象物件のリスクが十分に解明できない可能性があります。買受希望者としては自ら対象物件を見ることができれば望ましいのでしょうが,内覧制度によるほかは事前に物件を内覧することはできず,また,内覧制度による内覧にも各種の制約があります。

    これらの状況を反映し,競売物件は瑕疵担保責任を負わない定めとなっています。本来あらゆる売買契約において瑕疵担保責任というものが民法で定められており,買主が売主から購入した後,隠れた瑕疵が見つかり,それにより売買の目的が達せられない場合,買主は契約を解除できます。一般的な「隠れた瑕疵」とは,買主が通常の注意では気づかないレベルの瑕疵を言い,売主自身が気づかなかったものも含みます。住宅の瑕疵として考えられるのは,雨漏り,シロアリ,その他手抜き工事等などがあげられるでしょう。通常の売買においては瑕疵担保責任を売主に追及することができますが,競売においては,瑕疵担保責任を追及して損害賠償を請求したり,売却契約を解除したりすることはできません。

    さらに,買主から見た場合,強制的な売却という状況に迫られた物件であるということから,競売物件であるがゆえの心理的抵抗感があることも否めないでしょう。

    また,手続の面から見ると,競売物件に関する情報の提供期間が,通常の不動産取引よりも短期間であること,入札にはあらかじめ保証金の差し入れが必要である上,残代金も指定された期日までに一括して即納しなければならないことなど取引に特殊性があります。さらには,物件の引渡しを受けるために法定の手続が必要となる場合があることなど,通常の不動産売買とはかなり異なる手続を経ることになります。

    以上のようなことから,通常の不動産取引と比較すると,不動産競売は市場での競争条件において不利な点があることは否定できません。このような競争条件の不利を十分に考慮し,「競売市場修正」など価格に対してマイナスの影響を与える修正要因を考慮して評価が行われています。

  4. 競売不動産を評価する場合,どのような資料を収集しますか。

    まず,一般の不動産鑑定評価で必要とされる資料は便宜上,次のように分類されています。

    1. (1)確認資料

      評価対象不動産の物的確認及び権利の態様を確認する場合に必要となる資料をいいます。

    2. (2)要因資料

      価格形成要因に照応する資料で,一般的要因に照応する「一般資料」,地域要因に照応する「地域資料」及び個別要因に照応する「個別資料」に分類されます。

    3. (3)事例資料

      鑑定評価方式の適用に必要とされる現実の取引価格,賃料等に関する資料をいいます。

    次に,競売不動産評価に当たって,通常必要と思われる資料を分類,整理すると次のとおりです。

    資料の種類 項目 内容
    確認資料 土地関係 登記記録,固定資産税評価証明書,地籍図又は公図,地積測量図,道路位置指定申請図,官民境界査定図,特に土壌汚染に係るものとして閉鎖登記簿謄本・過去の住宅地図・航空写真・官公庁の関連台帳ほか
    建物関係 登記記録,固定資産税評価証明書,地籍図又は公図,建物図面,建物の配置図,平面図,立面図,建築確認通知書,建築請負契約書,見積書,仕様書,建物設計図,建物竣工図,建築計画概要書,検査済証ほか
    土地区画
    整理関係
    仮換地証明,仮換地指定図,仮換地位置図,重ね図,土地区画整理事業計画ほか
    宅地見込地
    関係
    開発許可書,基本設計図,開発登録簿ほか
    賃貸借関係 賃貸借契約書,賃料の改定経緯に関する資料,公租公課,必要諸経費等一時金授受に関する資料ほか
    その他 重要事項説明書,申込案内書等のパンフレット類,売買契約書,管理規約,周辺概況図,写真ほか

    (注)上記資料には,関係者の協力が得られて初めて入手可能なものも多数含まれていることに留意する必要があります。

  5. 競売評価書には一括価額と内訳価額がありますが,なぜこのように分けるのですか。

    一括価格は,各不動産について一括売却を行うことを前提とした場合の価格です。内訳価格は,配当等の判断のために一括売却の内訳として算出した価格です。日本の法律では,土地・建物が別個の不動産とされているため,各別に売却するのが不動産競売の原則となっています。

    土地・建物が一括で競売に付され,同一人が土地・建物を競落することが予定されたとしても,評価は差押の単位ごとに行われ,評価書に記載される評価額は,一括価額と土地・建物の各々の価格の内訳価格が評価書に明示されることになります。

  6. 競売不動産の評価においてどのような評価方法が用いられますか。

    評価人は,評価をするに際し,不動産の所在する場所の環境,その種類,規模,構造等に応じ,取引事例比較法,収益還元法,原価法その他の評価の方法を適切に用いなければならないとされています。(民事執行規則29条の2)

    しかし,対象不動産の種類や現況,地域の実情等から,取引事例比較法,収益還元法,原価法の三手法を併用することが困難な場合があります。その場合には,対象不動産の特性等に応じた適切な評価方法を選択・適用し,一手法のみあるいは二手法により評価を行います。

    1. (1) 原価法

      原価法とは,価格地点における対象不動産の再調達原価を求め,この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の価格を求める手法で,この手法による価格を積算価格といいます。

      対象不動産を価格時点において再調達(再造成・再建築)した場合どのくらいの費用を要するか,そして対象不動産が経過年数等により物理的・機能的・経済的に価値が低下していると認められる場合にはこれを考慮して(減価修正),対象不動産の現在の価格を求めます。

    2. (2) 取引事例比較法

      取引事例比較法とは,多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い,各取引価格に必要に応じて事情補正,時点修正及び標準化補正を行い,かつ,地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格から対象不動産の価格を求める手法です。この手法による価格を比準価格といいます。

      市場での現実の取引を価格判定の基礎とする手法であるため,近隣地域や同一需給圏内の類似地域に対象不動産と類似性・代替性の高い不動産取引が多数行われている場合には,実証的で説得力のある価格が求められます。

    3. (3) 収益還元法

      収益還元法とは,対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより,対象不動産の価格を求める手法で,この手法による価格を収益価格といいます。

      収益還元法は,投資家の投資採算性に着目した手法で,賃貸用不動産や賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める時に特に有効です。収益価格を求める方法には直接還元法とDCF法の2つがあります。

  7. 建物の再調達原価とはどのような意味ですか。

    建物の再調達原価とは,競売の目的物件となっている中古建物について,同程度の建物を現時点で再建築する場合の費用のことです。それは標準的な建設費に通常の付帯費用等を加算したものとなります。(直接法といいます)

    1. (1)標準的な建設費

      1. (1) 直接工事費(材料費,労務費,直接経費)
      2. (2) 間接工事費(共通仮設費,現場管理費)
      3. (3) 一般管理費(一般管理費,請負者の適正利潤)
    2. (2)通常の付帯費用

      1. (1) 設計管理費
      2. (2) 公共公益施設負担金
      3. (3) 許認可費用
      4. (4) 地代相当額
      5. (5) 建設取得費用(不動産取得税,登録免許税)
      6. (6) 近隣対策費
      7. (7) その他費用

    しかし,競売の場合は,債務者・所有者の協力は得られないのが通常であり,建築設計工事図面や建築工事費見積書,建築工事請負契約書等を入手することは稀なので,上記費用を実際に積算するのは困難となります。

    そこで,その建物の使用資材や施工の程度を観察し,類似の建物の再調達原価と比較して決定することとなりますが,下記のとおり建築年代,地域性や種類・構造,総合的なグレード(品等)などを考慮します。(間接法といいます)

    1. a.建築年代

      時代に合った建築様式の変化,建築技術や設計・設備の進歩により,一般的には建物の建築された年代が新しいほど高くなります。ただし,一時的な建設資材価格の下落により下がる場合もあります。

    2. b.地域性

      一般的に都市部ほど建築資材や人件費コストが高いことから,地方より首都圏が高く,地方でも都市部ほど高く,郡部ほど安くなります。

    3. c.種類・構造

      住宅・アパート・マンション・店舗・事務所・倉庫・工場等の種類,木造・軽量鉄骨造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造・ブロック造等の構造により使用資材が異なります。

  8. 建物の経済的耐用年数とはどのような意味ですか。またどのように判断するのですか。

    建物の経済的耐用年数とは,建物がその使用目的に適応して,充分に使用目的を満足できうる年数(建物の寿命)のことで,物理的な寿命の観点から税法上用いられる法定耐用年数とは異なるものです。

    建物の経済的耐用年数は,建物が今後何年位の使用に耐え得るか(経済的残存耐用年数)を判断し,その年数を経過年数に加えて経済的耐用年数を判断します。したがって,経済的残存耐用年数は,建物の種類・構造及び増改築の有無並びに維持管理の状況等により影響されるものであるため,これらを総合的に判断することが必要となります。

  9. 競売不動産評価において,どのような場合に収益還元法を用いるのですか。

    競売不動産は,強制的な売却を行うための評価であることに配慮し,不動産投資家が競売市場に参入しやすい価格を求める必要性があることから,収益性を十分に考慮した評価を行うことが要請されます。したがって,競売不動産評価が現に賃貸等に供されている収益物件の場合は,原則として収益還元法を適用します。さらに,現状利用状態が自用または空室の場合においても,賃貸に供して収益物件として保有することに相応の合理性がある場合には,積極的に収益還元法を適用することとしています。

    ただし,以下のような制約があることにより,将来の純収益の予測が困難と判断される場合は,収益還元法を適用しないことができることとしています。

    1. (1) 土地・建物自体による制約がある場合

      • 明らかに違法建築であると認められる場合
      • 老朽化等により物理的もしくは経済的残存耐用年数が少ない場合
      • 維持管理が劣り,賃貸に供するための大規模修繕費等の判定が困難である場合
      • 土壌汚染の可能性が高く,現状の賃貸を継続することが不適切と判断できる場合
    2. (2) 賃貸市場による制約がある場合

      • 建物の用途が特殊で,一般の賃貸市場での賃貸が困難な場合
      • 高級住宅地の戸建住宅等,地域及び物件の特性から判断して,賃貸を想定することが困難な場合
      • 土地・建物の適合状態が不良で賃貸市場における競争力が劣る場合
  10. 競売評価書に記載されている「法定地上権」とはなんですか。またどのように評価しますか。

    土地上に建物を建てる場合,土地に対する何らかの権原が必要です。たとえば,A所有の土地上にBが建物を建てるには賃借権等を設定します。A土地にAが建物を建てる場合は所有権原で建てられます。それが競売等により土地と建物が別々の所有者に帰属することとなった際,建物が敷地を利用する権利がいったん消滅することとなり,建物を土地から撤去しなければならないという不都合が生じます。こうした社会経済上の損失を回避するため,土地建物が競売等により分離処分される際に,ある一定の条件の下,法律の規定により建物のために発生する敷地利用権が「法定地上権」です。

    法定地上権が成立する土地の評価は,建付地価格から,建付地価格に権利割合(地域・条件により異なりますが,概ね30%~70%)を乗じて求めた法定地上権価格を控除して求めます。法定地上権価格は,借地権(賃借権)価格の0~10%増を標準とします。

  11. 競売市場修正とはどのような意味ですか。

    競売不動産は,一般不動産の売却に比べて,以下のような各種の制約があり,競売参加者の負担となっています。したがって,競売評価では,これらの制約を競売市場修正として減価要因と捉え,評価を行っています。

    〈競売市場の制約例〉

    • 売主の協力が得られないことがほとんどです。
    • 買受希望者は内覧制度によるほかは,物件内部の確認が直接できません。
    • 引渡しを受けるために法定の手続をとらなければならない場合があります。(占有者が精神的問題を抱えている場合や寝たりきり老人がいる場合,また暴力団幹部が居宅として利用している場合などがあります)
    • 瑕疵担保責任がありません。
    • 競売物件特有の心理的抵抗があります。
    • 入札には保証金が必要で,残代金も指定された期日までに即納しなければなりません。
  12. 競売物件に建物賃借人が居る場合,評価額にはどのように反映されますか。

    抵当権設定登記以前に設定または占有が開始された借家権(建物賃借権)は先順位賃借権として抵当権に優先しますので,競売によっても消滅せず,買受人が引き受けることになります。よって,契約の目的・経緯・内容,使用の態様,賃料,存続期間及び所有権の制約の程度等を総合的に考慮し,必要に応じて建物価格(土地利用権価格を含む)の概ね20%~40%を標準として占有減価を求め,これを建物価格から控除して評価します。この場合,借家人の立退きに要する費用相当額は重要な目安となります。なお共同住宅等賃貸を目的とした建物で,相応の賃料が設定されている場合は,減価しないのが一般的です。

  13. 滞納管理費等相当額の減価とはどのような意味ですか。

    区分所有建物(マンション等)の評価の際に,正味の評価額から減価される費目に「滞納管理費等相当額」という費目があります。

    滞納管理費は,マンション等の管理組合が当該区分所有者に対して有する債権であり,区分所有法7条により「先取特権」が認められています。また,この債権は,同法7条により,当該債務者の特定承継人にも請求することができるため,マンション等の正味の評価額から控除する必要があるわけです。

    なお,「滞納管理費等」の「等」は,管理費の外,修繕積立金や遅延利息,場合により駐車料等も先取特権の対象となるため,これらの滞納額も含まれる,という意味合いです。

  14. 占有減価とはどのような意味ですか。

    不動産競売の市場参加者の方にとって占有者等の存在は,落札から明渡しに至るまで大きなリスクといえます。平成8年の民事執行法改正では引渡命令の相手方の範囲の拡充等が行われ,平成16年には民法改正により短期賃貸借保護制度の廃止や明渡猶予制度の創設など,法整備が進められてきました。

    1. 1.買受人に対抗できない占有者

      買受人に対抗できない建物占有者は,明渡猶予制度の適用の有無や引渡命令の対象となるか否かを問わず,原則として占有減価の対象にはなりません(但し,土地の場合は,土地利用権がなく建物を所有し占有している場合には,建物収去に建物収去土地明渡訴訟の提起が必要となるなど,買受人が占有を回復するまでの時間的経済的費用性を考慮して減価を行う場合があります)。

      明渡猶予制度の適用を受ける占有者がいる場合については,買受人は賃貸人の地位を引き継がないため修繕義務や敷金返還義務等がなく,建物使用の対価として賃料相当額の不当利得返還請求ができます。また支払われない場合は明渡猶予制度の適用がなくなり,引渡命令が出るため買受人の負担は大きくないと判断され,占有減価は行ないません。

      また,明渡猶予制度の適用を受けず,引渡命令の対象となる占有者がいる場合には,たとえ不法占有者であっても減価は行いません。これは,不法占拠等による売却基準価格の低下という執行妨害を認めない観点と他の引渡命令の対象者(所有者・債務者等)について減価を行っていないこととの整合性などが理由です。(但し,占有減価を行うか否かは執行裁判所の判断となりますので,三点セット等でよくご確認下さい)

      なお,引渡命令が出る場合でも強制執行まで行うと買受人の費用負担も大きくなりますが,当該リスクは競売市場修正の中で考慮されています。

    2. 2.買受人に対抗できる占有者

      買受人に対抗できる権原による占有がある場合に,その占有状況等(現行賃料等の契約内容や対象不動産の種類等)により減価を行うことを一般的に占有減価といいます。借家権付建物等の買受人が,自らの占有を回復するために必要と見込まれる負担という概念です。買受人に対抗できる占有を排除(立退き)するために通常必要とされる費用相当額を目安として算出され,原価法のみを適用して対象不動産の積算価格を求める際に,完全所有権に復帰するための負担を控除し,現況評価を行うために減価を行います。

      一方,対象不動産が収益用不動産である場合には,賃借人の占有を前提とした経済的な交換価値を把握し,収益還元法による収益価格を中心に評価額を決定します。この場合,積算価格は自用物件としての価格の性格を有します。収益用不動産が最有効使用の状態で,経済合理性に適った家賃を収受している場合には,収益価格と積算価格はほぼ同水準で試算され,占有者がいることが減価要因にはならず,原則として積算価格から占有減価は行いません。しかし,賃料低廉や特殊な使用方法等により対象建物に価値の減少が発生し,市場性や収益性が低下していると認められる場合には,積算価格からその要因(占有)を控除することは一定の合理性があるため,市場性や収益性の低下を検討した上で,場合によっては積算価格から占有減価を行います。

      原価法のみを適用した場合の占有減価は,自己の占有を回復するという概念であるのに対し,収益還元法を併用する場合に積算価格に行う占有減価は,賃料低廉な対抗力のある占有者(長期賃借権者等)が占有していることによる減価ということになります。

  15. 市場性修正とはどのような意味ですか,またどのような場合に行いますか。

    市場性修正とは,その物件の特殊性のために,売却が困難であるような場合,物件自体に内在する特殊性等を考慮して,物件を一般の市場に流通させるための修正です。修正を行った場合には具体的な修正要因を評価書に明記する必要があります。

    市場性修正の具体的修正要因は,できるだけ類型化しその要因を記載するものとします。

    具体的には

    1. (1) 老朽化した建物で空室が多い物件。(収益物件)
    2. (2) 使用,収益,処分に制限が加えられる持分の取得となる物件。
    3. (3) ラブホテル,風営業関係,温泉旅館等。
    4. (4) 自殺等の事故物件。
    5. (5) 無断転用が行われた農地。
    6. (6) 墓地跡地。
    7. (7) 地中に建物の基礎部分が残されている物件。
    8. (8) 土壌汚染地または疑いのある土地。

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